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ウタカゼミニノベル『ある雪の日の話』

 雪は嫌いだ。
 あの村を思い出すから。
 冬は苦手だ。
 外の寒さよりも冷えている両親の手を思い出すから。
 部屋から一歩も出ない時期もあった。こんな使命手放してしまえとも思った。
 だけど、怯えてしまっては他の場所が手遅れになるかもしれない。
 だからこそ、より多くの人を助けるために研究をはじめて、ヒントを探すために大きな人々の調査ができる探検隊に入って。
 気が付いたら、導かれる側から導く側になっていた。




 



 ここは、想いがかたちをなす大地の中でも、特に知名度の高い歌風の龍樹。
 今日は何かお祭りがあるらしく、屋台の準備をしていたり、赤い恰好をしたコビットがやたら多くいたり、ヒカリコゲのランタンで龍樹が照らされたりと、なんだか忙しない。
 だが、図書室のすぐとなり、セント師の研究室だけは違った。
 外の喧騒もここはほとんど聞こえない。暖かい暖房を付けながら、セント師が1人、ひたすらに書籍の解明をしている。
 ……いや、正確には1人ではない。
「ここはいつでも暖かいですねぇ」
 セント師の近くにある本の中から声がする。
 正確には、本に埋もれているケイトがしゃべっているだけだが、彼女はいつもそうしているので、本を汚さない限りは放っておいている。
「そりゃ、そんなところにいれば暖かいだろう」
「まぁそれもあるでしょうけどぉ」
 彼女――ケイトが本から出て来てこちらを見据えている。
 そのまま、いつもと変わらないような、気の抜けた顔で彼女は言った。
「なにか、強迫概念的なものを感じますねぇ。狠箸くしないといけない瓩澆燭い福」
 その辺どうですかぁ、セント師?
 のほほんとした口調と、たれ目の奥には、強い意志のこもった瞳。こういう時のケイトは、簡単には引いてくれない。
 セントは大きくため息を吐いた。
「何だっていいだろ」
「えー、いいじゃないですか、教えて下さいよぅ」
「寒いのが苦手だからだ」
「本当にそれだけですか?」
「それだけだ」
「ふーん……」
 この目は信じてないな。
 セントは心の中でそう思ったが、特に突っ込まないことにした。面倒なことになりそうだったし。
 ただ、突っ込まなくても、面倒なことになるときはなるのだ。
「教えてくれないとこの本蹴飛ばしますよ?……こんな感じに」
「蹴るな」
「冗談です、まだ蹴ってません」
「今からでも蹴るな」
「だってほら、気になるんですもん。それにこの本、セント師が本を書き写したおかげで、原本は図書室にあるやつでしょ? だからいいじゃないですかぁ」
「良くないし、これ以上何かしでかすなら追い出すぞ」
「わぁひどぉい」
 呑気に呟きながら、ケイトは元の読書に戻る。
 これでようやく静かになった。
 安心したセントに、眠気が襲いかかってきた。





 炎が目の前で燃え盛っている。
(――なぜ)
 人々が泣きながら逃げ惑っている。
(――どうして)
 救世主を求めて叫ぶ声は、悪意を持った異形の化け物によってかき消される。
(――この村が!)
 丹念に育てた畑は炭となり。
 どんな動物よりも大きかった歌風の木はたった今倒されてしまった。
 皆の希望だった歌風の木は、皆の絶望の視線に晒されながら、赤く染まっていた。
 もう、死ぬだけだ。そう思った時に、声が聞こえた。
「急げ!」
「早く、助けるんだ!」
「大丈夫です、僕たちが来ました!」
 その声は、とても頼もしかったけど、同時に、どうして、とも、思った。
 どうして、どうしてどうして。
 もっと、早く来てくれれば、どんなに――……。





「セント師、汗びっしょりですけど大丈夫ですか?」
 次に目を覚ました時には、隣にケイトがいた。
 ずいぶんと懐かしい夢を見たもんだ。
「問題ない」
「そうですか。はいお水」
 頼んた覚えもないのに、コップの中には氷の入った水が。何処から出てきたんだろう。
 普段なら、一言二言返してから水を突き返すセントだが、今日は小さく「ありがとう」とつぶやいた後に、飲み干した。
 これにはケイトも、
(あら珍しい)
 と思ったが、それはセント師の自尊心の問題もあるだろうから深くは聞かないでおこう、とも思ったので静かに本を読み始める。
 セントも水を飲んだ後は、何事もなかったかのように書類を書き始めた。


 ……どれほどの時間が経っただろうか。青かった空は赤色に染まり、もうすぐ真っ黒になろうとしていた。
 そんな時。
「ケイト」
「何ですかぁ?」
「お前は確か、生まれた時から歌風の龍樹にいたんだよな?」
「そうですねぇ。でもまぁそれで何かあったかって言われると、何にもないんですよねぇ」
「あっただろ。両親が生きてる」
 何か引っかかる言い方に、ケイトは違和感を覚えた。
 そしてすぐに悟った。この人は何か、心の中のものを吐き出したがっている。
 だから、尋ねた。
「セント師って、ご両親いないんです?」
「あぁ、もういない」
 ポツリ、と。
 悲しい訳でもなく、昔を思い出す口調でもなく、ただあったことを淡々と述べるような、そんな話し方だった。
 セントは誰に聞かれている訳でもなく、話を続ける。
「……雪の日だった。俺の村は、悪意の精霊に襲われた。もう跡形も残っていない。父さんも母さんも、悪意の精霊に襲われて死んだ。死んだ後に、ウタカゼが来たんだ。悪意の精霊の討伐のために」
「…………」
「生き残った村人は、ウタカゼの口添えもあって、近くの村で引き取ってもらえた。だが、俺はウタカゼとともに歌風の龍樹に来た。元々村に友達もいなかったからな」
「…………」
「その後は、普通のウタカゼと変わらんさ。訓練して、勉強して、ウタカゼになって、気が付いたらウタカゼの師になってた」
「そこは普通じゃないような?」
「普通だろ」
「普通だったら私だってウタカゼの師ですよぉ?」
「馬鹿言え。お前みたいな性格がコロコロ変わる奴がウタカゼの師であってたまるか」
「そんなもんですかねぇ」
「そりゃそうだろう」
「残念」
「…………」
「…………」
 会話が途絶え、2人は再び本を読み始める。
 そして、空の色が完全に真っ黒になったところで、ケイトは本を閉じ、セント師に向き合う。
「セント師」
「なんだ?」
「外のお祭りを見に行きましょう」
「は?」
 何を言っているんだと、そう言いたげなセント師を片手で制し、ケイトは続ける。
「私はいまでも両親生きてますし、妹いますし、そのへん分からないですけど。とりあえず今のセント師はひとりじゃないんですし、たくさんの生徒だってできましたし。昔の思い出とか、辛かったこととか、そういう荷物を背負って、頑張って前を向いて歩き続ける必要だってないんですよ。疲れたら足を止めて、なんなら重たくなった荷物を少し落としてもいいんです。落としても後ろから拾って歩ける程度には、セント師はいろんな人が側にいるんですよ」
「…………」
「だからお祭りに行きましょう。ってか私この空気疲れましたぁ」
「…………」
 セント師は、しばらく考えた後に、イスから立ち上がって言った。
「俺は喧騒が嫌いだ」
「知ってますぅ」
「それで、お前の小休憩はいつも異様に長い」
「仕様ですー」
「だから、今日は見張ってやる。お前が休憩とかこつけてサボり過ぎないようにな」
「ははーん、そういう事ですね。いいですよ。温かい飲み物置いてる屋台に行きましょう」
 そうやってお互い軽口を叩きながら研究室から出た瞬間、多くの生徒がセント師を待っていた。
 うるさい、お前ら離れろ! とさけぶセントの顔は、いつもよりも機嫌がよさそうだった。

<おしまい>
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